公募戦線終了宣言1
公募戦線終了宣言
2021年10月中旬、1年半にわたる公募戦線がとりあえず終わりました(5-10年後とかにまたあるのかもしれませんが)。 これからの人に参考になるかもしれないので、経験を少しまとめておこうと思います。
応募歴
国内
年月 | 組織 | 職位 | 分野 | 評価 |
---|---|---|---|---|
2020年5月 | 広島大学 | 准教授 | プラズマ工学 | 書類審査× |
2020年6月 | 早稲田大学 | 准教授 | 電気・情報生命工学 | 書類審査× |
2021年1月 | 東京大学 | 准教授 | フォトンサイエンス | 書類審査× |
2021年6月 | 電気通信大学 | 准教授 | 先端計測 | 書類審査× |
2021年6月 | 東北大学 | テニュアトラック准教授 | 材料科学 | 書類審査× |
2021年6月 | 千葉大学 | 准教授 | 物理学 | 書類審査× |
国外
年月 | 国名・組織 | 職位 | 分野 | 評価 |
---|---|---|---|---|
2021年6月 | フィンランド VTT | Scientist | 核融合プラズマ計測 | 書類審査◯、インタビュー× |
2021年7月 | アメリカ General Atomics | Scientist | 核融合プラズマデータ解析 | 書類審査× |
2021年7月 | アメリカ Oak Ridge National Lab. | Senior scientist | 核融合プラズマ計測・原子物理 | 書類審査◯、インタビュー◯、受諾 |
2021年7月 | アメリカ 某核融合ベンチャー | Scientist | 核融合プラズマ計測 | 書類審査◯、インタビュー◯、辞退 |
2021年9月 | アメリカ General Atomics | Scientist | 核融合プラズマ計測 | 書類審査◯、取り下げ |
国内人事公募への応募
この期間、国内ではほとんど応募できるところがありませんでした。私の専門はプラズマ物理・原子物理です。 物理学会で1〜2領域を占める程度の大きさの分野で、とりくんでいる研究室の数もそこそこ多いはずですが、国内の准教授の公募としては広島大学の1件しかありませんでした。 様々な事情があって、国内でこの分野は縮小しつつあることもありました。 そのため「物理学全般」みたいな非常に範囲が広くて激戦になることが目に見えているところにしか出せず、書類審査すら通りませんでした。
この時期、「テニュアトラック助教」が広まりつつあり、その公募ばかりが目立っていました。
テニュアトラック助教とは、「任期付きだけれども最後にある審査に合格すると任期なし准教授になれる」的なポジションです。
しかし、現任の任期なしの助教から任期付き助教になるのは気乗りせず、結局あまり応募しませんでした。
この時期はとにかく、どこの大学も若い人をとりたかったようです(目安としては私の3-4歳下くらいまでと聞きました)。 大学は文部科学省から、教員の年齢分布を下げるよう要請されています。 テニュアトラック助教は、准教授のポジションを確保した上で若い人を雇うという仕組みなので教員の平均年齢を下げるのに効果的だということです。
このような傾向は所属している京都大学の様子からも伺えました。
(なお書類審査で落とされたある大学の知り合いの先生に評価理由を聞いたところ、大学が若い人を求めているという理由でだめだった、と後ほど教えてもらいました。まぁ体の良い断り文句かもしれませんが)
あとは機械学習分野、量子コンピューティング分野の公募が目立っていました。
私の妻は仕事をしています。 転勤するとなると、彼女に転職をお願いすることになりますが、その仕事の可能性があるところでないといけません。そうすると応募先としては都市圏に限られます。 息子の教育のことを考えても、少子化が進む田舎に行くことははばかられました。
結局、出すところもないし、無理やり分野違いのところに出しても通らないしで八方塞がりな状況が続いていました。 当時のポジションは公式には任期なしということになっていたので、万年助教も悪くないかな、とか思っていたのでした。
海外人事公募への応募
ある時、国外の公募(フィンランドのVTTという、日本の理研に似た組織)を見つけたので応募してみました。 国内と海外の公募の違いについては別で述べますが、フォーマットなどは自由なので応募書類の作成に手間はほとんどかかりませんでした。
これまで国内の公募では面接に呼んでもらったことすらなかったのに、このフィンランドのVTTからはすぐに面接に呼んでもらえました。インタビューでは落とされてしまいましたが、国内の公募との感触は圧倒的に違いました。 「あ、これは国内の公募は無理だな」と感じて、そこから国外を中心に応募していくことにしたのです。
実際、国外に目を向けると、原子物理・プラズマ物理の公募が結構あったので専門が重なるポジションに応募することができました。 また、職位と年齢がそれほど結びついていない場合も多いので、もう一度助教クラスから始めるということにも(私も公募側も)抵抗がありませんでした。 そういった理由もあり特に私の場合は、書類審査の通過率が国内と国外ではまるで違いました。
国によりますが、西・中央ヨーロッパや北アメリカなどの先進国では物価・給料が日本よりも高いことが多いです。 そのため同じように妻が退職・転職するにしても、国内よりはなんとかなるかもという思いもありました。 あとは妻のパーソナリティでしょうが、海外に住んで環境が変わるのはおもしろそうと思ってくれたようです。
振り返ってよかったこと
1年前には自分が海外で働くことは想像できませんでした。 ここ数年間を振り返ってみてよかったこと、悪かったことは以下のようなものです。
ドイツでの1年間の在外研究 (2018年9月-2019年9月)
私が所属していた京大の教室では、若い人に在外研究の経験をさせてあげるという風習がまだ残っていました(そろそろその体力もなくなりつつあるのかもしれませんが)。いつか行きたいなぁと思いつつ、しかし妻が仕事を1年休むのはそうそうできないので、実現できていませんでした。
しかし息子が産まれて3ヶ月、妻は育児休暇をとっていて家にいます。「今だ!」と思い立ってその3ヶ月後には日本のアパートを引き払って家族でドイツにいたのでした。
ドイツでは大御所の研究室に所属しました。
良い研究の進め方などを知ることが出来て、その後もそこそこ研究成果を出せるようになりました
(公募戦線でも、ドイツ滞在をきっかけに出版できた PRL 2本が評価されたように思います)。
さらにいくつか国際共同研究の論文も出せました。
またこの1年間で英語力がだいぶ向上した気がします。
この経験がなければ、海外の公募に応募しなかっただろうなと思いますし、応募したところで通らなかったと思います。
インターナショナル保育園(2020年-)
ドイツ滞在時、1歳だった息子は現地で保育園に通っていました。 ドイツ語は理解していましたし(親はからっきし)、いくつか単語も喋っていました。 せっかくバイリンガルになりつつあるのに、帰国してその感覚を忘れてしまってはもったいない気がしたので、国内では英語の保育園に行かせていました。
インターナショナルプリスクール グローバルヴィレッジ という保育園で、先生は全員バイリンガル(もしくはそれ以上)、保育園内では日本語禁止という徹底したところでした。 保育料も高いし、友達と日本語を喋らないのは息子の発達によいのかどうか実際よくわからいので、通わせている間は「これは正しいことなんだろうか」と常に不安でした。
ただ息子が英語を理解している、というのは国外のポジションを探す上で非常に安心感がありました。 いきなり環境が変わっても、言葉がわかればそこまで大変ではないに違いない、と思えると踏ん切りがつくものです。
核融合研究
これは分野に独特の内容ですが、私は博士課程在籍時・そこから5年間程度、核融合科学研究所の大型実験に参画していました。 応募した案件では「大型プロジェクトに参加したことがある」という経験が強く求められていたので、この経験が役立ちました。
振り返って足りなかったこと
急に海外公募への応募を始めたので、人的ネットワークが足りていませんでした。
私が主に応募したのは研究所ですが、大学のポジションだと偉い先生からの推薦書が3−4通必要なことが多いようです。これは文化の違いなどもあって、国外の人のほうがよいようですが、そういうコネクションをあまり持っていませんでした。
また、やはり採用サイドもよく知っている人を採りたいでしょう。そういうネットワークがあれば良かったなと思いましたが、このときは学会もコロナの影響でオンラインになっていてネットワーキングは難しい状況でした。
論文出版などに比べて、国際学会への出席は業績としては評価されないので、私自身これまであまり精力的には国際学会に参加していませんでした。 学会にたくさん行って、国際共同研究なんかを始めたりして、長期的にネットワークを作っていくべきだったなと思いました。
今回2つの組織から、所属する人と会ったこともなかったのにオファーを出してもらえたのは非常に幸運だったなと思います。
まとめ
当時は、公募戦線ですごく戦っている気がしていたのですが、出した書類の数を数えるとそれほどでもなかったです。 あまり出せるところがなかったので精神的には辛かったですが、時間的にはそうでもなかったのかもしれません。
国内公募・国外公募にかかわらず、私は採用側の実績を見るようにしていました。
例えば国内のある私学大学の公募では(よく聞く有名な大学だったんですが)、採用側の教員が全然論文を出していませんでした。
それぞれの経歴を見てみると、それまでは論文を出していても、その大学に来てからは共著を含めほとんど論文がない、みたいな状況を見つけてしまい、その大学の様子が想像できて恐ろしく感じたのでした。
海外の場合も、採用側の出版歴を見るとどういう研究に興味があるかがわかりますし、自分の実績と比べて採用され得るかどうかの目安もつくと思います。
国外公募の応募・審査プロセスについての経験についてはまた後日別記事にまとめようと思います。