公募戦線終了宣言2

公募戦線終了宣言2:審査プロセス

国外公募は初めてのことも多く、新鮮であると同時に様々な戸惑いがありました。 参考になるかもしれないのでここにそのプロセスを公開します。 なお本記事はこの記事の続きです。

現在勤務しているOak Ridge National Laboratory (ORNL) での審査日程は以下のような感じでした。

年月日 内容
2021年7月中頃 応募書類送信
2021年8月中頃 インタビューに進んだことの連絡
2021年9月末 インタビュー
2021年10月中頃 オファーレターの受け取り

公募情報の収集

ORNL はそこそこ大きい研究所で、研究所のホームページに採用専用サイトを持っています。
ORNL キャリアサイトへのリンク
知り合いに ORNL の採用サイトを紹介されて、今回の求人をたまたま見つけたのでした。

今回採用された理由の8割は、たまたま 専門分野がばっちしあってた ことだと思います。 もちろんインタビューの工夫などいろいろしたのですが、最終的にはたぶんここでした。 job description にて求められている内容は「これだと世界中で数人しかいないのでは?」と思うようなものだったので 「これは狙い目だ!」という気持ち半分、「こんなにも限定した内容ならばデキ公募に違いない」という気持ち半分という感じでした。

いずれにせよ、求められているスキル・経験がすごく合致している公募を見つけたのでそれに応募したという感じです。 そのほかの研究所の採用ページや、APS career や Academic positions などのメーリングリストにも登録して情報収集していました。

どういうところで公募情報を集めると効率がよいかなどこちらに来てから色んな人にきいたので、それについてもこの記事の最後の方で書きたいと思います。

書類の準備

日本国内の公募では応募締切が決まっていることが多く、締切までに出した応募は全て審査されるものが多いと思います。 しかし私が見た海外の公募では、特定の締切が決まっていないものが多くありました。いい人が見つかれば採用活動を終了するというパターンです。 採用側としても、良い人を他の組織にとられたくはないからでしょうかね。

そのため、出せそうな公募を見つけたらすぐに応募するほうがよいだろうということで、数日で書類を作って出していました。

多くの場合、必要な書類は Cover letter と CV + resume という感じでした。 推薦書が必要なことも多いということもよく聞いていたのですが、参考人の連絡先さえ書いておけばよい、というパターンも多いみたいでした。

これらの書類を準備するにあたり、増田直紀先生の「海外で研究者になる-就活と仕事事情」という本が非常に参考になりました。以下の書類準備に関するコメントは、この本の受け売りだと思ってください。

参考になるかもしれないので、私が提出した書類を公開します。

CV + Resume

私が提出したCV + resume

フォーマットはありません。自由な形式で提出すればよいそうです。こちらに来てからも色々な人のCVを見る機会がありますが、だいたいみんなバラバラです。 私はどこかで見つけたフリーのLaTeXテンプレートを使っていますが、こちらでもこのテンプレートを使っている人がいました。

おおよそ書くべきことは決まっていて、学歴・職歴・論文リスト・委員歴・その他スキル、などでしょうか。 論文リストは長くなるので、代表論文のみを載せることにして全リストは別添にしていました。 逆に代表論文にはその内容のまとめを数行つけました。 この代表論文やその説明は、応募先によって少し変えたりしていました。

このやり方は「海外で研究者になる-就活と仕事事情」に学んだのですが、これはなかなか有効な方法だと思います。 採用側としては応募者がどんな論文を書いているか興味があるわけですが、かといって全部読むわけにはいかないのでどれか1-2編を選んで読むことになるでしょう。 応募側は「これが自信作です」とアピールできるわけですから、これを使わない手はないです。

Cover letter

私が提出した Cover letter

公募に最も合わせ込むべき書類がこれです。 いかに自分が、求められているスキルや経験を持っているかなどをアピールします。

私が応募した研究所ではチームで研究を進めることが多いので、「研究テーマが変わってもすぐに適応できる」感じを強調していました。 しかしとりとめもない研究をしてきたように見られてもいけないので、どのように自身が研究テーマを選んできたのかのストーリーも加えていました。

応募先に合わせて書類を変更しますが、せいぜい1ページだし、書くことも多くないので1日あれば作成できます。 国外に応募するようになってからは書類の準備が非常に楽になりました。

インタビュー

書類を応募したあとは、先方から連絡があるまで何もすることはありません。 ORNLの場合は連絡まで約1ヶ月かかりましたが、応募先によっては1週間程度のこともありました。

一方で連絡があってからは、急いで先方の論文リストを読み漁ったりました。下に述べるように、アメリカの典型的な面接ではインタビュワーの数が多いようです。各人の論文を読んでそれぞれがどんな人かを把握するのが大変でした。

アメリカの採用では、インタビューにすごく時間をかけることが多いようです。

私が経験したインタビューでは

  1. 研究内容のセミナー (45分発表+15分質疑)
  2. パネルインタビュー (インタビュワー 4-6 人 vs 私、1時間)
  3. One on oneインタビュー (30分 x 4-5 回)

を行うことが多かったです。

コロナ禍ということもあり、全てリモートだったので移動の労力はありませんでしたが 4時間ぶっ続けで面接という感じになるので結構消耗しました。

インタビューセミナー

おおよそ45分発表+15分質疑の研究発表が基本形態のようです。 日本の公募では多くの場合、セミナーも含めて評価プロセスは非公開の場合が多いと思います。 しかしアメリカでは、この研究発表は公開されることが多いようです。 私の発表も、研究所の部門全員に公開されました。 採用にかかわらない構成員も聴講・質問できます。質疑の受け答えも評価しているんだと思います。

本番直前のリハーサルの動画を公開します。
インタビューリハーサル動画

研究内容をわかりやすく伝えることが必要なのは一般的な研究発表と同じだと思いますが、そのほかにも

などの工夫をしました。 普段冗談なんか言えない性格なので、ジョークの部分も何度もリハーサルしたりしました。 (今見返してみると全然面白くはないんですが、それでも最初にちょっとフフッとでもさせると効果は多少あるんじゃないでしょうか)

また、すぐ後にインタビューがあるので、そこでの話のネタになる内容を入れておいたことがすごく役に立ちました。 例えば、ある研究成果を話したあとに 「この成果にもとづいてこういう共同研究を企画・申請して採用されたんです」 みたいな話を入れておくと、その後のインタビューでその内容を質問されたりします。 また、「私にはこういう経験があって…」みたいな答えかたをする時にも、セミナーで触れた話だと喋りやすいです。

資料を作成したあと、リハーサルを録画したこともよかったです。 英語が得意でないこともあって、後から自分でみてみると話す速度が遅すぎることに気づきました。 あとは練習しすぎるとどうしても話す速度が単調になるので、「本番では緩急をつけいないといけないな」みたいなことにも気づけます。 緊張して険しい顔になってるのもよくないな、とか。笑顔笑顔。

パネルインタビュー

何人かのインタビュワーに囲まれて、次から次へと質問される形式のインタビューです。 これが最も厳しかったです。

最初に全員がそれぞれ1分くらいの自己紹介をします。 そのあと、インタビュワーから順番にマシンガンのように質問を浴びせられ、それに答えていくというのがよくあるパターンのようです。 最後に、こちらから採用側に質問をします。

複数の組織から聞かれた内容は

などでしょうか。正解のない質問ばかりなので、全て答えにくいのですが、その質問にあう経験を記憶の中から引っ張り出してきてそのときにどう行動したかを伝える、ことを意識して回答していました。

例えば「新しい環境に置かれた時、人的ネットワーク構築をどうやって作るか」という質問には、 「実はドイツに滞在した時は言葉もわからないので苦労して、でもご飯を一緒に食べたり、同僚のプロジェクトに自身の知識を使って貢献したりすることで徐々にネットワークを作っていったんです」みたいな感じです。

何か聞かれるたびに「えーそんな経験あったかな」って頭がフル回転する感じで非常に疲れました。

最後にこちらから質問できるタイミングがあります。 おそらくこの質問内容も評価される重要な点だと思いますし、こちらにとっても応募先のことをよく知ることのできるいいチャンスです。

私の場合、本当に最も不思議だった

のほか、

などを聞きました。 あとは、ジョブ・デスクリプションに載っていないけどやりたいことがやれるか、ということも聞きました。 私の場合、予算申請や教育をこれまでやってきたけどそれらは載っていなかったので、「ぜひやりたいんです」みたいな感じで情熱を伝えました。

One-on-Oneインタビュー

採用側の人が一人ずつ面接してくれます。このインタビューには偉い人たちが割り当てられるようです。 正解のない質問ばかり受けるという点ではパネルインタビューとあまり変わりませんが、こちらとしてはより個人的な話が聞けます。

例えば、キャリアパスについて質問したあと、採用側の人に「なぜあなたはそういうパスを選んだのか」みたいなことを聞いたりしました。

希望年収の提示

国内の人事公募では、給料は最初から決まっていて、むしろ着任するまで知らないということも多いと思います。 もちろん国によりますが、アメリカでは(フィンランドもそうでした)給料が重要なファクターなので交渉できます。そのため同じ職位でも給料が違うことがよくあるそうです。

ただ意地の悪いのは、これがまだオファーが決まってない時点で聞かれることです。 あまり高い金額を言うと落とされるのではないかとどうしても思ってしまいます(たぶん法外でなければそんなことはないです)。 しかも海外だとどの程度もらえると不便なく生活できるのかなどなかなか想像できないので難しいです。

私も非常に困りました。 今ではアメリカでの給料をなんとなく想像できるようになってきた気がするので、応募を検討している人は気軽に相談してください。

オファー

インタビューが終わった後はできることはありません。ひたすら連絡を待つだけです。 アメリカと日本とでは時差がほぼ半日あるので、連絡が来るとすれば真夜中になります。 「もしかしたら今晩連絡来るかも」と思うとつい夜中に目が覚めてしまって、寝不足の日が続きました。

実際インタビューが終わってから3週間ほど何の音沙汰もなかったので、途中からは完全に諦めていました。 それこそ「これはデキ公募だったに違いない。いい当て馬にされた」と信じていました。 しかしある朝メールボックスにオファーメールが入っていて、興奮して妻を叩き起こした記憶があります。

オファーの通知には組織によって色々なやり方があるようです。 いきなりオファーレターが送られてくるパターンもあれば、インタビューの後もいろんな話し合いをしたり参考人に連絡をとったりするパターンもありました。

オファー後の交渉

このオファーレターをもらってまだサインしていない時というのが最もこちらの発言権が強くなるときですので、交渉のタイミングだと言われています。 せっかくなので、私も交渉してみました。 成功したかどうかは伏せますが、結局交渉中は契約手続きも進まないし、「印象悪くなってオファーを取り消されたたりしないだろうか」みたいなことを思ってしまって精神的に疲れるし、そもそも給料に不満はなかったしで、個人的には交渉は好きではなかったです。いい経験になったけど次はいいや、という程度でした。 2つ以上オファーを持っていてかつどちらも行きたい、という状況だとガンガン強気で交渉できるんでしょうが、なかなかそんなにちょうどよいタイミングでオファーもらえないですからね…

まとめ

その他インタビューでよく聞かれた内容が「海外生活をこなせるか」ということでした。組織側としても海外から人を採るのはコストもかかるしリスクもあります。 これだけコストをかけたのに、「生活が合わないのでやめます」となられては困るということでしょう。 (採用側がビザ申請や引っ越し代を持つことが多いようで、外国人を新しく採用するとすごくコストがかかるのです)

私自身インタビューでは「家族で1年間ドイツに住んでいたので余裕っしょ」みたいなことを答えたのですが、今思い出してみるとドイツの生活もプレッシャーと新しい環境とで苦しかったことも覚えています。アメリカでも最初の数年は苦しいだろうなという気はしています。

自分だけでなく、家族が生活に慣れることも必要でしょう。特に妻は仕事をやめてついて来てくれるのですが、大人が現地のコミュニティに所属するのは簡単でなく、油断すればすぐ孤立してしまいます。色々努力する必要がありそうです。

こちらに来てから、何度か他人のインタビューセミナーを聴講する機会がありました。 自分がしたことを、評価をしもされもしないただの聴衆の立場で参加するのはなんと気軽なことかと非常に新鮮でした。

実際色々なセミナーを聞いてみると、もちろんネイティブの方が英語は上手なんですがセミナー自体がうまいかというと、必ずしもそういうわけでもない印象です。 構成をちゃんと練ったプレゼンができれば、英語が多少下手でも全然勝算はあるな、という感じがしています。

こちらに来てから周りの人に聞いてみると、特にアメリカの私の分野では、アメリカ物理学会で公募を行うことが多いようです。 アメリカ物理学会は専用のページを持っています。 私は知らなかったので使いませんでしたが、歴史的にAIPのAIPの公募情報のページ にも多数の公募が掲載されるようです。

最近は学会が対面に戻りつつあります。学会現地でブースを設けて人を集めるということがこれまでは一般的だったようです。こちらの一番大きい学会はアメリカ物理学会のプラズマ物理部門の年会で、ここで多くの組織が人集めをしているそうです。 まだ国際学会への参加はなかなか難しいかもしれませんが、可能な方は現地にいってブース回りをするとよいのではないでしょうか。